慈悲ゆえに草に埋もるる南瓜かな

農園紹介

地域

汐田ファームは東京から南に約180キロメートル、黒潮の中に浮かぶ伊豆諸島三宅島にあります。三宅島は火山のカルデラを中心にして周囲に集落が分散してますが、汐田ファームは島の北東に位置します。三宅島は巨樹数日本一の自治体で、森にはスダジイの巨木がたくさんあります。
農場はこの山の中にあり、タブやスダジイ、ヤブツバキなどの鬱蒼とした森に囲まれています。周囲を農地と隣接していませんので、農薬が飛散してくる心配もありません。

生産物

当初は伊豆諸島の特産であるアシタバの露地栽培を試みましたが、農業指導員の方より中古ビニールハウスを 斡旋してもらい、パッションフルーツの栽培を勧められたので始めました。栽培に際しては、かねてからのこだわりである有機栽培を試みましたが、なかなか思うようにいかず、試行錯誤の末ようやく6年目より納得のいくものができるようになりました。
パッションフルーツは三宅島の風土に合っていたらしく良品ができ、また病虫害にもきわめて強く、施設園芸でこれほど無農薬栽培に適した熱帯性作物は、他に思い当たらないほどです。
また、その後青パパイヤの栽培も始めました。パパイヤは当時島では誰も商業栽培をしていませんでしたが、試験栽培したところハウスでの越冬性が良く、またその成長の早さ、強健さに魅力を感じ、当初はフルーツとしての栽培を試行しましたが、青パパイヤの健康効果に惹かれ、方針を転換しました。
そのほかに、現在アロエベラの栽培を試行中です。アロエベラもパッションフルーツや青パパイヤと同様病虫害に強く、無農薬栽培に適した作物です。また最近は、島で以前から栽培されていたドラゴンフルーツ、島レモンの栽培にも乗り出しています。

こだわり1

化学肥料・化学合成農薬の不使用

とりわけ施設栽培では、特定の害虫が大量発生したり、病気が広がったりしやすいといえます。
これらは基本的に、収量を上げるために過剰な窒素肥料を投与することに起因すると言えます。例えばパッションフルーツの無農薬栽培に関しては、アザミウマの発生をいかに抑えるかが要点になります。
そのため、当農園では、化学肥料を使用しないだけでなく、油粕など窒素分の多い生の有機物の施用も極力回避しています。
代わりに緑肥すき込みや、カニ殻粉末・カキ殻粉末・海藻粉末など海産ミネラル資材の施用により、土壌環境の健全化を図り、無農薬栽培を実現しています。

こだわり1

緑肥栽培の活用

有機栽培においても牛糞堆肥・豚ぷん堆肥・鶏糞などの厩肥(家畜糞尿堆肥)を使うことが一般的ですが、当農園ではこれらの使用は回避しています。
というのも家畜には病気を予防するために抗生物質などの薬物が投与されていることがあり、化学物質・重金属などが蓄積する可能性があるからです。またこれらは土中で腐敗発酵しやすく、適切に施用しないと土壌環境が悪化する傾向があります。
したがって当農園では、堆肥としてこれらを投与することは控え、代わりにエン麦・ヘアリーベッチ・ソルゴー・クロタラリアなど緑肥を栽培し土中にすき込んでいます。
これにより土壌に腐植質を供給すると同時に、土壌線虫などの発生を抑止しています。

園主紹介

お客さまへのごあいさつ

汐田ファームの塩田冬彦です。東京都中野区出身。伊豆諸島三宅島在住です。
まず、縁あってこの三宅島に住み、自然の中での生活を送ることが出来ることに、深く感謝します。島民の方々、同じ農業を営む仲間たち、また役場や支庁の方々に支えられ、ここまで来ることが出来ました。
もとより農業は決して儲かる職業ではなく、年収も少なく苦労も多いのですが、しかしこうして自分が好きなことを生業として生活が送れることに日々感謝して毎日を送っています。
すべての生命は、自然の中でお互いに関係し合いながら生きています。私は農薬や化学肥料が必ずしも悪だとは考えていません。ただそれらに無批判に頼ると、農地の生物多様性すなわち生態的多様性が低下し、微生物を含めた生物相が貧困化することが予想されます。
すると作物が弱体化し、生命力が弱まり、病気や虫に冒されやすくなります。したがって、とりわけ土壌中の微生物層が豊かであることが作物にとっては重要なことになります。生命力の強い作物は、味も良いと思います。できるかぎり農地に自然生態系を再現し、作物に無理のない素直な生育をさせる、そしてその命を私たちの糧としていただく、そのような営みを、これからも続けていきたいと思います。

農家になった経緯

私は父親の憧れだった北海道大学に入学し動物学を学びましたが高校時代に無常を感じ大学では座禅を始めました。
その後大学院で英文学を学びました。修士論文はローレンス・スターンの『センチメンタルジャーニー』についてまとめました。スターンから学んだことは多かったです。
しかし私が動物学や英文学を選んだのも就職のためではなく「生きるとはなにか」を知るためでしたが答が得られなかったので卒業後は就職したり研究者になる道は選ばず、実家の家業の内装業の手伝いや建築派遣バイトに明け暮れる日々が続きました。しかし建築現場は偉大な学校でした。また肉体労働は私の中の眠っていた感覚を目覚めさせたと思います。
そのうち、農業でもやれば山の中で静かに生活できるかもと考え、自然農法家のもとを訪ね歩いたり、研修に入ったりしました。三宅島には子供の頃からよく家族で旅行に来ていたので、父親に老後の隠居でも作ってやろうかと、当初は二・三年の滞在のつもりでしたが、結局私が居着くことになり、ビニールハウスばかりがどんどん増えているような状況です。

伝えていきたいこと・信念

農業にはその人の哲学が表れます。
地域循環を重視し肥料をすべて地域内で調達することを是とする人もいれば、不耕起や無肥料栽培を是とする人もいます。
基本的に私は、それらにこだわると自分のやりたい農業が出来ないと判断しました。例えば地域循環にこだわると、リン酸肥料として骨粉を使わざるを得ませんが、しかし私は家畜由来の肥料は信条として使いたくないので、輸入品であるバットグァノ(天然のコウモリの糞の堆積物)を使うことを決断しました。
また無肥料栽培といっても、日本ではたいてい田畑輪換だと思います。三宅島のように水田がない地域では極めて困難です。結局、有機農業や自然栽培も需要と供給の問題なので、慣行農法がそれらに劣るわけではありません。ですからそれらを「自然との共生」というような聞き心地の良い言葉で表現することには、私は躊躇します。それはむしろ、作物であれ雑草であれ、スピノザの言う「コナトゥス」(自己保存の努力)が肯定された、そのような姿なのだと思います。
理想論ではなく現実に即応するのも、哲学であり生き方です。私は趣味でスピノザ哲学の研究書や句集を自費出版していますが、パッションフルーツの栽培もまた、私にとっては趣味であると同時に「哲学」でもあります。
「畑の哲学者」、そうありたいと思っています。私もまた今後も、農業を通して自然との対話を続けていきたいと考えています。

書籍紹介:著者「塩田冬彦」

今後の展望・夢

とはいえ、私にとって農業は哲学であると同時に、何よりも芸術でありたいと思っています。
農作業はアートですし、作物は作品です。人生も農作業も芸術の一環です。私にとって日常生活のささやかな感動を俳句にしたり、感動した風景を写真におさめることと、農作物を生産することは同じ次元の活動です。
ですからたんに作物をお届けするだけではなく、そういった日々の感動・想いを一緒にお届けできればと考えています。俳句や風景写真などのかたちで、私が日々感動したことをこれからもこの場で発信し続けられればと思います。それによって、皆様の心が少しでも豊かになるのであれば、私にとってこれに勝る幸せはありません。
といいますのも、結局人間は自分の生活の充実・幸福を常に追い求めていますが、最後には自分がどれだけ他人の役に立てたかで、人生の価値は決まるのだと思います。これは私が、スピノザとともに尊敬する宮澤賢治から引き継いだ課題です。今後もこの課題を、農業を通して問い続けていきたいと思います。